人を笑わせるために進化を続ける学生主体のプロジェクト

漫才ロボット「あいちゃん」と「ゴン太」がいるのは、甲南大学知能情報学部 。まずは、漫才ロボットの研究を主導する灘本明代教授、ロボットの を担当する梅谷智弘教授、音声などの知覚情報処理を担当する北村達也教授にお話をお伺いしました。

灘本明代教授

梅谷智弘教授

まずは漫才ロボットについて。キーワードを入力すると、漫才台本を生成して、漫才を実演してくれます。

灘本教授キーワードに関連したニュース記事をWebサイトから取得。記事の文章をベースに、ボケやツッコミを入れた台本を2〜3分で自動生成して、約3分の漫才を披露しています。基本はつかみ、本ネタ、オチの3段構成で、私たちは本ネタのなかのいくつかあるボケの対話のかたまりを“ボケコンポーネント”と呼んでいます。このボケコンポーネントは、言葉遊びボケ、ノリツッコミなど、一つのボケコンポーネントを複数組み合わせて、台本を生成しています。

梅谷教授動きや目の表情なども、台本に合わせて変化しますしね。

北村教授まだまだナレーション的な音声ですが、最近ではかなり感情豊かな音声で話せるようになってきました。

この漫才ロボットの研究はどういった経緯で始まったのでしょうか?

灘本教授今でこそAIブームですが、今から12年前当時は人工知能(AI)がまだ一般に浸透しておらず、私のいる知能情報学部の「知能」の意味が理解されておりませんでした。そこで、何か学部をアピールできることはないか?と当時の学部長から相談されたのが始まりです。私は以前、Web上のニュースなどをテレビ番組風の受動的コンテンツに変換する研究をしていて、幅広い年齢層にコンテンツを提供する上で、漫才台本などを研究していました。そういったこともあり、「ロボットに漫才させてみようか」という話になったんです(笑)。

梅谷教授台本ができて、実演するといっても、大きなロボットでは発表するだけでも大変です。だから、学生さんが研究発表や実演をするための卓上ロボットの開発もしました。昔は舞台の1分前まで動かなくて、舞台に上げたら突然動いたとか、ハプニングも多かったんですよ(笑)。今はロボットの中の構成も当時からかなり進化していて、実演もすぐできるようになりました。でも、ボディは10年前から2体ともほぼ同じで、ずっとあのコンビ。市販のものではなく、完全オリジナルで制作したことがよかったと思います。

北村教授漫才は感情の振れ幅や歯切れの良さ、スピード、間合いなど、独特ですよね。そういった漫才ならではの音声に近づけることが目標です。少し前までは読むのが精一杯でしたが、今はロボットに使用している音声合成もかなり進化を感じています。

そして、漫才ロボットの研究は今も進んでいるんですね。

灘本教授当初から学生主体のプロジェクトで、学生が自分のアイデアを台本生成技術に組み込んで、アップデートを繰り返してきました。たとえば、ある学生がノリツッコミを入れたいといい、その学生がノリツッコミのボケコンポーネントを考え、実装していく。面白くなる時もあれば、面白くならない時もありましたが、今もアップデートは進んでいます。

北村教授毎年卒業研究発表会で学生が実装した新しい技術を見せてもらうのですが、個人的にはそれをいつも楽しみにしています。こんな風に笑いを取ろうとして、プログラムを作って、自動生成させているんだな…といった工夫も見られるんです。自分たちで台本を書くのではなく、台本を書くためのプログラムを考えるという点が、私は学生たちにとって有意義であるように思います。

北村達也教授

人の動きや思考プロセスを取り入れながら、漫才ロボットだからできることを

そんな漫才ロボットの技術は、どんなことに役立つとお考えですか?

灘本教授2024年から大阪国際がんセンター、奈良先端科学技術大学院大学と一緒に、病院のがん患者さんを対象に、「お笑いはヒトを元気にできるのか」を検証する取り組みを始めようとしております。漫才ロボットではありませんが、入院中や退院後の患者さんに、学生が同じ漫才台本生成技術を実装したタブレットでのチャット漫才を毎日見てもらって、どう思うかを評価する、長期間の実証実験です。このような実験は、人ではなくてもお笑いを生み出せる技術ができたからこそ、実現できました。

ロボットだからできるお笑いがあるということですね。

灘本教授病気の人や心が落ち込んでいる人に提供するのは、ガハハと大笑いするようなものではなく、身近で心が和むようなお笑いがいいと思います。また,自動生成することより,漫才を見る人に対してあなたの好きな話題の漫才といったように,漫才のパーソナライゼーションができます.これによりパーソナライゼーションされたお笑いが、誰かの心に力を与えることがあるかもしれないですよね。キーワードを入力した、あなたのためのオンリーワンの漫才ができるということですから。

そんな漫才ロボットのこれからについて、教えてください。

北村教授人は対話を通して、相手の知性を想像します。そういった意味では、音声を進化させることで、人とロボットの距離感が変わる可能性もあります。また、音声だけではなく、様々な情報処理の技術を駆使して、漫才台本をよりおもしろいものに変えることができると思います。たとえば、画像処理の技術を用いて、笑顔認証でウケているかを判別して、別のネタに切り替えるなど、技術で場を読んで、よりよいネタを披露していくような…。プロの漫才師も場を読んでいますよね。それと同じ思考プロセスをたどれば、もっと面白いお笑いを提供できるのではないでしょうか。

梅谷教授ハード面で言えば、今はできていませんが、いずれ手ぶりなどを入れて、感情を効果的に伝えるなど、漫才ロボットにはリアルな形があることを、もっと活かしたいと考えています。やっぱり、お台場に立つガンダムを見たら、その存在感はすごいんです(笑)。形があるから、リアルだから伝わるものがあるんです。ロボットを使った情報コミュニケーションの分野に、漫才ロボットの技術が貢献できればいいですね。

灘本教授昨今はAIブームですが、学生たちは漫才台本に生成AIを活用する研究に取り組んでいます。まだ、ボケとツッコミからなる対話を生成できないため、毎日頭を悩ませているみたいですが(笑)、漫才ロボットの可能性を拡げる彼らのチャレンジに期待しています。生成AIのような技術は、きっとこれからもっとたくさん出てきて、世の中を便利にしてくれると思います。甲南大学知能情報学部では2024年4月よりサイバーとリアルの空間を融合させる新たな研究もスタートしました。でも、新しい技術をどう使って、世の中をよりよくしていくかは人次第ですよね。漫才ロボットに限らず、人がしっかりと倫理観や道徳心を持って技術と向き合い、AIやロボットを正しく進化させていくことが、これからの時代に求められることだと思います。

漫才ロボットの可能性を拡げる研究が学生によって進行中

今回は灘本研究室で漫才ロボットの研究に取り組む大学4回生の柘植さん、大学院生の下崎さんにもお話を伺いました。

柘植陽介さん

下崎安紋さん

柘植さんはどんな研究をしているのでしょうか?

柘植さんこれまで漫才ロボットはWeb上のニュース記事を基に台本を生成していましたが、これらの記事は堅苦しく、面白味に欠ける部分があります。そこで、お題となるキーワードそのものを人の日常的な行動に変えるとどうなるのか。また、その日常的な行動の手順をChat GPTに生成させて,その生成された手順を基にさらに我々のプログラムにより漫才台本を自動生成してみたらどうなるのかを研究しています。たとえば、Chat GPTに電車に乗る手順を聞くと、切符を買って、改札を通って、電車に乗る、という順序=流れを回答します。漫才台本においてもこういった流れが重要で、予定調和になりがちだった漫才台本がこれまでにないものになるのでは、と期待しています。実際、今は漫才台本の流れがわかりやすくなってきていますが、逆にシンプルすぎて面白くない…といったことが今度は課題に。漫才は台本の流れが複雑だから面白いという側面もあって、そのバランスの調整が難しいなと感じています。

下崎さんはどんな研究を?

下崎さん私はこれまでとは大きく異なり、生成AIに漫才を覚えさせて、新しい漫才をさせてみたいと考えています。その理由として漫才ロボットには、もっと日常的な会話に近い漫才や、いろんなお題にも柔軟に対応できるような漫才ができるようになって欲しいと考えているからです。普通、生成AIの研究は、問いに対して正しい答えを返す、通常の会話をテーマにすることが一般的なのですが、漫才ロボットでの研究では、あえて正解ではない言葉を返す「はずし」が重要であるので、ある意味逆行するような研究です。でも、そこがこの研究の面白さです。漫才においては、間違って返すことが正解ですので、それをどうやって生成AIに学んでもらうか、日々頭を悩ませています(笑)。こういった技術が、いつかAIやロボットとの自然な広がりのある対話の実現につながるのでは、と考えています。

そうなると、どんな未来になりそうでしょうか?

下崎さんAIと人の垣根がどんどんなくなって、いずれフラットになる未来が来るのではないでしょうか。普通に人と話すようにAIやロボットと対話できる世の中になるはずです。ある意味、ドラえもんみたいな存在ですよね。友達みたいな感覚で付き合えるAIやロボットが、きっと出てくると思います。

柘植さんドラえもんのような友達感覚のロボットが理想ですが、実現はずいぶん先の未来かもしれません(笑)。残念ながら、今はロボット側から人へのアクションがなかなか難しいのが現状です。でも、いつかロボットと人が共存するような世の中が訪れるはず。研究が進み、下崎さんが話すように、自然な対話ができるように進化していけば、漫才ロボットがドラえもんのような存在になる日が来るかもしれないですね。

漫才ロボット – 灘本研究室
https://www.nadasemi.jp/robot_manzai/hp/</a >

甲南大学知能情報学部
https://www.konan-u.ac.jp/faculty/ii/</a >

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