高栄養価で飼育しやすい食用コオロギは、地球にやさしい未来食

昆虫食が世界中で議論を交わされるきっかけとなったのは、2013年に発表されたFAO(国際連合食糧農業機関)のレポート。昆虫食が多くの国々で20億人以上の人々の日常的な食材となっている点にふれ、世界的視点から昆虫食の可能性を展望しました。その後、世界各国で昆虫食の研究が進むなか、国内では食用コオロギに注目が集まりました。今回はコオロギを食材とするさまざまな研究や取り組みを行っている徳島大学発ベンチャーの株式会社グリラスで、生産技術部長としてコオロギの飼育や加工など管理している市橋寛久さんにお話しを伺いました。

まずは昆虫食について教えてください。

市橋さん変温動物である昆虫は、恒温動物である牛や豚、鶏などと比べ、生育する際の温室効果ガス排出量や必要な水やエサの量が少なく、環境負荷も軽減されるといわれています。昆虫食に抵抗感を持つ人が多いのは事実ですが、栄養価と環境のことを考えると、地球にやさしい未来食だと思います。

なぜ、コオロギなのでしょうか?

市橋さん日本でも古くから蚕やイナゴが食されていたように、食用の昆虫はさまざまですが、弊社で飼育しているフタホシコオロギは、飼育しやすい特徴があります。休眠する性質がなく、省スペースで飼育できるほか、35日で成虫になるように成長が早いんです。また、雑食性のためエサの選択肢が幅広く、私たちも食品工場などで出てしまう食糧残さを飼料として飼育しています。食糧廃棄の問題にも貢献できるということですね。

グリラスは2019年の設立以来、そんな食用コオロギの可能性に取り組み続けています。

市橋さん徳島大学では約30年前から前学長の野地澄晴先生によってコオロギの基礎研究が行われてきましたが、その研究を社会に役立てたいという想いから、野地先生の教えを受けた渡邉崇人が、コオロギを食用として活用しようと、代表としてグリラスを設立しました。当社のコオロギの飼育技術などのノウハウは、大学の基礎研究がベースとなっています。

ちなみに、コオロギはどんな味ですか?

市橋さん東南アジアではコオロギを炒めた料理などが普通に食べられています。もちろん、私も食べたことがありますが、エビなどの甲殻類の香ばしさと、主食のエサである穀物系の甘みをあわせもつ、お酒のおつまみにも合うような味です。これまでいろんなレシピを試作していますが、炒めたコオロギをガス火で炙って炭火焼きのような香りをまとわせる“炙りコオロギ”が一番おいしかったですよ(笑)。


出典元
・温室効果ガス:Oonincx et al., 2010.
・水の量:Pimentel et al., 2004.
・餌の量:van Huis, 2013

いざという時に、コオロギを食材の一つとして選べるように

お菓子などに用いる、食用コオロギを粉末状にしたコオロギパウダーがグリラスの主力製品ですね。

市橋さんまだまだ昆虫食には抵抗感がありますし、日持ちなどを考慮しても、現在は、粉末状にして使用しています。コオロギは前日にエサ断ちしたうえで、なるべくストレスのかからない状態で収穫するなど、品質面でも徹底管理をしています。粉末に関しては、約70%という豊富なタンパク質をはじめ、鉄分、ミネラル、ビタミンなどを含んだ総合栄養食となっています。

そんな食用コオロギは食糧問題の解決に貢献できるのでしょうか?

市橋さんコオロギパウダーを作り続けるだけで、食糧問題の解決に貢献できるとは考えていません。この先、世界の食料需給がひっ迫してきた際に、食用コオロギが食材の一つとして選択肢に挙げられるようにするための取り組みと位置付けています。

詳しく教えてください。

市橋さん人口増加に起因する食糧問題は、需要に対して、供給が追い付かなくなることで生じます。そうなると、たとえば今まで普通に食べていた鶏肉の価格が大きく高騰したり…といったことも考えられ、鶏肉が今までのように買えなくなったり、品質のよくない鶏肉を食べないといけない時代になるかもしれません。そういった食の需給バランスが崩壊しないように、代わりとなる次の食材を準備しておく必要があります。私たちが事業の根本はまさにここ。決してコオロギを食べましょうと言っているわけではありません。将来、必要な時に必要な人が食べられるように、コオロギという選択肢が選べる状況にしておきたいという想いで取り組んでいます。

グリラスはそのためのノウハウを積み重ねているわけですね。

市橋さん口に入れるものですから、一番は安心・安全な食材であることを大切にしていいます。たとえば、私たちは目が白いフタホシコオロギのアルビノ系統を採用しています。これは、人為的に作り出したわけではなく、突然変異によって自然に発生したものを大切に維持しています。このアルビノどうしを掛け合わせると必ず同じアルビノ系統が生まれることから、他の系統が混入してもすぐ区別できるんですね。屋内で純粋飼育したコオロギである証と言えます。このほか、微生物や異物などの品質検査も常に行っています。これは普通の加工食品と変わりません。むしろ、コオロギだからこそ、力を入れています。

そして、やはり「おいしいもの」を供給することが、私たちが目指すところです。環境のために食べる…というような、ロジカルな話が先にあってから食べたとしても、日常的な食材として定着するのは難しいですよね。普通に食材の一つとしてコオロギを選べるように、地道に一歩ずつ、ノウハウを積み重ねているところです。

事業の先にある、食糧危機が来ない未来を描いていきたい

市橋さんがグリラスに入社した理由を教えてください。

市橋さん私は大学の農学部を卒業後、農林水産省に入り、イギリス・ロンドンで日本食の普及活動などに取り組んでいました。私がいた2018年〜2020年は、イギリスでも今までにない洪水などが頻発したことから、環境意識が大きく高まり、私もそのことを肌で感じる機会が何度もありました。そこで、ロンドンでの任期が終わって帰国後、日本に戻って行政の立場で仕事をするよりも、もっと食と環境の最前線で働きたいと考えるようになり、グリラスに入社しました。日本の一次産業は世界に比べて危機的状況にありますが、コオロギなら世界と勝負できる一次産業に発展していく可能性もあると感じたのです。

そんな市橋さんが考える食用コオロギの可能性、これからへの想いを聞かせてください。

市橋さん世界的な環境意識の高まりと、気候変動という差し迫った問題を考えると、食はこれまで以上にローカルなものへと戻っていくのではないでしょうか。特に農業や畜産業については、無駄をなくして、地域で生み出したものを地域で消費することが基本になるように思います。そのような流れのなかで、コオロギの飼育や生産などを通して、国内の一次産業に貢献していきたいですね。

また、今のままでは食糧危機が現実となる可能性があり、それを防ぐ手段の一つとして、ロジカルに考えるとコオロギは有用です。もちろん、それが正解なのか、今はわかりません。ただ、人が豊かな食生活を送り続けるためにも、昆虫食や食用コオロギの可能性をこれからも追求することで、食糧危機が来ない未来を描ければと考えています。

株式会社グリラス
https://gryllus.jp

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