安心・安全なバイオマスCO2吸収剤が地球を救う!
軽量で丈夫、加工もしやすいプラスチックは、暮らしの身近な場所で活躍しています。自然分解しにくい性質から環境問題の一因とも言われていますが、このプラスチックがカーボンニュートラル*1に貢献できるとなれば、プラスチック製品との付き合い方は大きく変わる可能性があります。
株式会社ベホマルは、バイオマスCO2吸収剤の開発製造販売を行うスタートアップ企業。この吸収剤をプラスチックに混ぜて用いることで、大気中のCO2を常温で吸収する“DACプラ*2”に変えることができます。今回は代表の西原麻友子さんに、注目を集めるバイオマスCO2吸収剤や、“DACプラ”を活用することで目指したい未来について、お話しを伺いました。
*1 カーボンニュートラル:二酸化炭素(CO2)をはじめとした温室効果ガス排出量をできるだけ削減し、削減できなかった温室効果ガスを吸収または除去することで実質ゼロにすること
*2 DACプラ:Direct Air Capture-plastic。常温でCO2を吸収するプラスチック製品を指す
ここ数年、環境問題においてはプラスチック=悪みたいなイメージが強まったように思いますが、バイオマスCO2吸収剤は、そのプラスチックが環境問題に貢献するんですね。
西原さん多くのプラスチックは実用化の際、いろんな樹脂添加剤を少しずつ加えることで、プラスチック製品の機能を維持したり、新たな機能を付与したりしています。当社のバイオマスCO2吸収剤も、そんな樹脂添加剤のひとつ。プラスチックに常温で空気中のCO2をキャッチ(Direct Air Capture)する機能を付与します。世の中にはたくさんの樹脂添加剤があり、CO2吸収剤もありますが、安心・安全な添加剤となると数は限られます。私たちのバイオマスCO2吸収剤は、みなさんの暮らしにも身近なデンプン由来。吸収剤は粉状なのですが、これをプラスチックと混ぜて作る“DACプラ”は、大気中からCO2を吸収し、約80℃の熱で放出する性質を持つようになります。
身の回りのプラスチック製品がCO2を吸収するなんて驚きです。
西原さんCO2を吸収する技術はたくさんあります。ただ、どれも工業規模のスケールのため、あまり暮らしに身近ではなかったように思います。身の回りにたくさんあるプラスチックや樹脂製品が環境に貢献できるとなれば、「“DACプラ”製品を買おうかな」という消費者が増えるなど、たくさんの人の環境意識が高まるのではと考えています。
バイオマスCO2吸収剤の開発は、いつからスタートしたのでしょうか?
西原さん私は大学院を修了後、京都の村田製作所で電子部品用電極材料の研究開発などに従事していましたが、新素材研究の一環で偶然目にしたのが、10数年以上前にアメリカで発表された、このバイオマスCO2吸収剤の論文でした。競合材料に比べてCO2吸収量が少なく、耐久性や安定性に課題があり、研究者や企業から放置されていた素材だったのですが、子どもがいる私にとって、“食べられるくらい安全な添加剤”というのは、ピンと来る部分があったんです。これを環境問題の解決にうまく活用したいと考えたのがきっかけです。
株式会社ベホマルの設立経緯も教えてください。
西原さん当時はこのバイオマスCO2吸収剤のニーズがあるのかなど、わからないことだらけで、企業内で一から新規事業として立ち上げるのはなかなか難しい状況でした。ですので、一度会社を立ち上げてみて、ビジネスとして成立するのかどうか、自分でマーケティングしながらチャレンジしてみようと思ったのです。起業前には事業構想大学院大学に入学し、年齢も職種もさまざまな同級生とのディスカッションを通して、事業構想をブラッシュアップ。その後、滋賀県の起業助成金を受けたこともあり、2022年11月、自宅の和室をラボに株式会社ベホマルを立ち上げました。起業後は環境に貢献できる事業ということもあり、行政や金融機関など、多方面からスタートアップ支援を受けることもできました。現在は立命館大学理工学部の山末英嗣教授と共同研究を行っており、同大学BKCインキュベータ(滋賀県草津市)にベホマルラボを開設し、拠点としています。
ユニークな社名も印象的ですね。
西原さん実は幼い頃からゲームが大好きで、社名はRPGゲームに登場する回復呪文が由来です(笑)。ビジョンは「地球を救う勇者になろう」。地球温暖化という大きな敵に立ち向かい、一人ひとりが勇気をもって、地球・資源循環・人の輪を回復しようという意味を込めました。会社のロゴマークには真ん中に☆があるのですが、これが勇者、つまり環境に貢献する「わたし」つまり自分自身を意味しています。
「環境問題は誰かが解決するのではなく、自分も!」ということですね?
西原さん環境問題を自分事で捉えることって難しいですよね。未来のためにアクションを起こした方がいいことはわかっていても、人々が日々の暮らしで実践するにはハードルがあるんです。ダイエットと同じですね(笑)。 “DACプラ”は特別なアクションを起こさずとも、少量ずつですが、自然にCO2を吸収します。まさに塵も積もれば…ですが、環境問題は誰か一人、一つの企業の取り組みだけで、解決できるものではありません。“DACプラ”製品を通じて、少しずつ環境問題を自分事として捉えられるような世の中になればと思っています。
ファッションアイテムもCO2吸収が当たり前の世の中に!?
バイオマスCO2吸収剤は、現在どのような状況なのでしょうか?
西原さんCO2吸収機能の改善を行っているほか、安定して供給するための生産や仕組みづくりに取り組んでいます。当社はファブレスの樹脂添加剤メーカーの立ち位置。バイオマスCO2吸収剤の製造は委託先で行い、提供することで、お客様に“DACプラ”を製造してもらうビジネスモデルです。現在はいくつか有償サンプル品を販売していて、興味を持っていただいたお客様から、実用化に向けたいろんなお話しをいただいています。
たとえばどんなものに?
西原さんプロモーション用に“DACプラ”の食器なども扱っていますが、ユニークなものを挙げればインクですね。油性インクは樹脂ですので、これにバイオマスCO2吸収剤を混ぜると、印刷したインクがCO2を吸収します。近いうちに、CO2を吸収する本や印刷物ができるかもしれませんね。
プラスチックを含めた樹脂は汎用性が高く、いろんな分野で使われていますので、バイオマスCO2吸収剤の可能性は広がりますよね。
西原さんまもなく、CO2を吸収するアクセサリーを販売する予定です。バイオマスCO2吸収剤を使ったレジンアクセサリーなのですが、レジンも樹脂ですので、吸収剤を混ぜることができます。身近に環境問題やCO2について意識してもらえるアイテムになればと、アクセサリー作りが得意なママ友に製作をお願いしたものなんですよ。
いずれ、服などのアパレルでもCO2を吸収する時代になりそうですね。
西原さんそうなんです!ファッションアイテムの多くは、ナイロンやポリエステルなどの化学繊維を使っています。これらも樹脂から作られるため、バイオマスCO2吸収剤の研究が進めば、化学繊維にCO2を吸収する機能を付与ことも可能になるはずです。「服を身につけるだけで環境に貢献する」「CO2吸収ウエアを着ることがおしゃれ」といった世の中が訪れるのも、そう遠くない未来の話だと思います。また、この服を着ればこれだけのCO2を吸収しています、と数字でわかるような仕組みも作っていきたいですね。実際、“DACプラ”製品を使った場合のCO2吸収量の証明書発行なども、大学の山末教授と一緒に実用化を目指しています。
バイオマスCO2吸収剤をきっかけに、環境問題解決に向けた仕組みづくりにも取り組む西原さんですが、そのモチベーションはどんなところにあるのでしょうか?
西原さん技術者として、何か新しいことを成し遂げたいという想いはもちろんありますが、それに加え、幼少期の思い出が環境問題に取り組む私のベースにあります。というのも、私の両親は洋画家で、幼い頃から一緒に日本各地を訪れ、風景画を描いていました。いまは自然災害などが頻繁に起こり、自然景観が次々となくなっている中、その美しい風景を、地球を、子どもたちに残したいという想いが、私の技術者としての根っこにあります。バイオマスCO2吸収剤の論文を読んでピンと来たのも、きっとそれが理由ですね。
たくさんの人がCO2や環境問題を考えるきっかけを生み出したい
環境にも貢献する“魔法の粉”、バイオマスCO2吸収剤ですが、課題はあるのでしょうか?
西原さんまだまだ量産化には至っていないため、通常のプラスチック製品よりもコストが高くなってしまうのは、課題のひとつですね。それでも、量産化に向けた研究開発が進んでおり、遅くとも2026年には“DACプラ”製品を世の中に流通させたいと考えています。また、プラスチックをはじめとした樹脂を使った製品は世の中にたくさんあるわけですから、ベホマルだけがバイオマスCO2吸収剤を提供するのではなく、樹脂添加剤の業界全体で競い合いながらよりよい吸収剤を開発し、提供できるような市場に成熟することになれば、コストも大きく変わり、より普及していくように思います。
“DACプラ”製品で吸収したCO2の行方も気になります。
西原さんおっしゃる通り、そこも非常に重要です。“DACプラ”製品を使う意義は、CO2の行方が気になったように、消費者の環境意識を高めることですからね。
具体的に教えてください。
西原さん現在、2050年のカーボンニュートラルの実現を目指して、国も、各企業もさまざまなアプローチで取り組んでおり、温室効果ガスの削減はもちろん、CO2を回収し、再利用するための大規模な投資が行われています。CO2は主に農業を中心に、ドライアイスや炭酸などに再利用することが考えられており、回収装置の小型化、CO2と水素を組み合わせた燃料化など、いろんな場所で研究が進んでいます。“DACプラ”製品は、このようなCO2リサイクルの仕組みをたくさんの人に知ってもらい、環境問題にについて考えるきっかけになって欲しいと考えています。現時点では、 “DACプラ”製品を燃やして(または熱して)、回収装置で吸収したCO2を回収することを想定していますが、今後よりよい回収・再利用のサイクルを生み出すことにも、ベホマルとして貢献したいですね。
大阪・関西万博での出展も決まっています。
西原さん関西パビリオンの隣、大阪ヘルスケアパビリオンで、CO2の回収・再利用を実践する装置を地元メーカーと一緒に出展します。乾燥機の熱で“DACプラ”食器のCO2を排出して回収。そのCO2を装置内の野菜プラントに供給し、収穫した野菜を再び“DACプラ”食器で食べる…という、CO2循環のプロセスをわかりやすく紹介できる装置になる予定です。たくさんの来場者にご覧いただいて、ベホマルのことを知っていただくとともに、環境意識が高まるきっかけになってくれたらうれしいです。
株式会社ベホマル
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