今やあらゆるものがデジタルデータで記録・保管(アーカイブ)できる時代。貴重な建造物や文化財などのデータ化は、復元や修繕、調査・研究においても重要な役割を果たしています。そんなデジタルアーカイブの分野で、大規模建造物から神社仏閣、さらに関西パビリオンの3Dデータ化まで、大きな実績を残し続けている会社が関西にあります。
高精度の点群データであらゆるものを3次元で表現
「森羅万象をデジタル化する」。そんな壮大なビジョンを掲げるのが、大阪府箕面市に本社を構えるクモノスコーポレーションです。阪神・淡路大震災があった1995年、被災地の復旧・復興に貢献することを目指して創業(旧社名・関西工事測量)。2000年に国内で初めて3Dレーザースキャナーを導入するなど、いち早くデジタル技術に着目し、3D計測やひび割れ計測システム「KUMONOS」を使った建造物のリスクサーベイなどの事業を展開しています。今回は3D計測やそこで取得する点群データ、さらにデジタルアーカイブなどについて、空間情報事業営業リーダーの中井麻友さんにお話をお伺いしました。


クモノスコーポレーションさんは、今回の大阪・関西万博の会場整備で真っ先に手を挙げて、第1号協賛契約を締結されていますね
中井さん関西に拠点を置く企業として、何か万博に貢献したいという想いで参加しました。会場整備においては、基盤整備工事のための測量全般にわたる役務を提供。関西パビリオンでは3Dレーザースキャナを使って施設の計測を行い、点群データを取得しました。それを元に生成した3Dデータは関西・WEBパビリオンでも紹介しています。
関西パビリオンがどんな建物なのか、細かい部分までわかるほど詳しく表現されていて驚きました!そもそも、点群データとはどういったものなのでしょうか?
中井さん点群はポイントクラウド(Point Cloud)とも呼ばれます。文字通り、点の集合体ですね。3Dレーザースキャナは、放射したレーザーが物体(点)に当たり、反射して戻ってきた時に、位置情報(XYZ)や色情報(RGB)、さらに物体が光を吸収する黒っぽいものだとか、光が屈折するガラス状のものだとか、その特性もわかる反射強度の3つの情報を取得しています。このような点の情報を無数に集めることで、対象物を3次元で表現することができます。


点群はまさに「デジタルの点の集合体」ですね。
中井さんレーザーは350m先まで照射でき、360度ぐるりとスキャンできます。スキャナの設定にもよりますが、1秒間に100万点の密度で点群データの取得が可能です。複数箇所からスキャンして取得した点群データを合成して3Dデータを生成していますが、その誤差は数ミリです。
すごい精度ですね!
中井さんたとえ遮蔽物があっても、表と裏からスキャンしてデータを取得し、合成しています。スキャナ自体は誰にでも操作できますが、精度を上げるためには、どこからどのように計測するのかがとても重要です。たとえトンネルや目標物が少ない広大な敷地であっても、基準球を置いて複数箇所から計測するなど、測量会社として創業した当社だからこそのノウハウがあることが強みです
取得した点群データはその後どのように?
中井さん点群データはデータ量が多く、関西パビリオンの点群データだと約50GBあります。そのため、表示したり、合成・編集したりするためのハイスペックなPCと専用ソフトを使い、3Dデータ化しています。点群データはあくまで図面やモデルなどの成果のための途中生成物のような存在なのですが、これまであまり日の目を見ることはありませんでした。だからこそ、当社では点群データを誰でもブラウザ上で閲覧できる点群プラットフォーム「TRINOS」を成果の作成と合わせてご提案しています。


後世に伝えるために、貴重な建造物や文化財をデータ化
点群データはどのような用途で用いられているのでしょうか?
中井さんプラントや工場などの増設などを行う際、図面がなかったり、手描きの図面しかないケースが多々あります。そのため、現況を把握するためにスキャンして欲しいという依頼が多いですね。また、近年は文化財のスキャンを行うケースが増えています。

数百年前に建てられた建造物は、図面がほぼ残っていません。
中井さんその通りです。だからこそ、建造物の点群データを取得して、正確なデータを後の世に残すためのデジタルアーカイブに当社は力を入れています。わかりやすい例では、大阪市にある「適塾」に関する事例があります。
適塾は江戸時代に緒方洪庵が開いた蘭学塾ですね。大村益次郎や福澤諭吉など、後の日本の発展に貢献した名士を数多く輩出した名門塾です。
中井さん適塾は大阪最古級の町家で国の重要文化財なのですが、大阪大学適塾記念センター様が立ち上げたクラウドファンディングプロジェクト「日本の近代化と感染症対策の原点、適塾の建物を後世に守り伝えたい!」に、3次元計測担当として当社も参画いたしました。外観や内観、屋根上、屋根裏など、すみずみまでスキャンした点群データをベースに、フォトグラメトリ※・CG制作技術を組み合わせることで、建材などの質感もわかる、リアルな3Dモデルが完成しました。適塾の外観、内観はそれぞれ、自由な視点で閲覧できるデータを公開していますので、ぜひご覧いただきたいです。
適塾3Dモデルhttps://sketchfab.com/Tekijuku_UOsaka/models
※フォトグラメトリ:写真からリアルな3DCGを生成する技術
現場にいなくても、まるでその場にいるかのように建物の様子が詳しくわかりますね。
中井さん点群データをデジタルアーカイブしておくことで、万が一の時でも建物を復旧したり、復元したりできます。また、神社仏閣はもちろん、貴重な近代建築、さらにアーム型スキャナを用いて、土偶や化石といった遺物、仏像などの高解像度のカラー点群データも取得しています。
たとえばどんな文化財を?
中井さん代表的なもので言えば、法隆寺百済観音像、遮光器土偶、「漢委奴国王」で有名な金印も。点群データによって学術的な発見もありました。調査・研究の分野においても、デジタルアーカイブは意義のあることだと考えています。
今回スキャンした大阪・関西万博の点群データも、後の世に残せるということですね。
中井さん万博の会期終了後でも、点群データがあれば、数十年後、数百年後でも、そのまま再現が可能です。各パビリオンだけではなく、会場全体をデジタルアーカイブするプロジェクトも進行中なんですよ。


さまざまな分野での活用が期待される点群データ
デジタルアーカイブにおいても有用な点群データですが、ほかにもどんな分野に活用できるのでしょうか?
中井さん点群データの活用がもっとも期待できるのが自動運転の分野です。自家用車や公共交通機関の自動運転において、点群データを用いた詳しい地形データを読み込ませて、走行ルートを選定することにも活用できます。このほか、災害対策、観光、xRを用いたエンタメなど、点群データの可能性は無限大です。
最近ではスマートフォンにもスキャン機能が搭載されています。このようなスキャンデータや3Dモデルを日常的に用いる未来が訪れるかもしれませんね。
中井さん建て替える前の自宅の様子をスキャンしたり、学校での子どもの作品を残すためにスキャン機能を用いることもできますよね。このようにスキャンが身近になったのは、ハード・ソフトの進化があったから。90年代に当社が3Dスキャン測量を行っていた時代はまだまだ点群データが粗く、機材も相当の重量がありましたが、今は本当に小型で高機能になりました。今後もハード・ソフトの進化が続けば、点群データの取得がますます簡単になって、活用範囲はぐっと広がっていくと思います。
クモノスコーポレーションとして、今後のビジョンを教えてください。
中井さん他社の例になりますが、火災があったパリのノートルダム大聖堂の修復工事では、火災前に取得された点群データが活用されました。災害や取り壊しなどで貴重な建物が失われたりするなか、データさえ残していれば、さまざまな形で再現できます。だからこそ、当社は「森羅万象をデジタル化する」ことをコーポレートミッションに掲げている通り、あらゆるものをスキャンして点群データを取得し、データ化することに今後も取り組みたいと考えています。それがさまざまな分野でのデータ活用にもつながっていくはずです。また、ハード・ソフトの進化に合わせて、誰でも点群データを扱える未来になればと考えています。大阪・関西万博が当社の点群データや3Dモデルをたくさんの人に実感してもらう機会になればうれしいですね。
クモノスコーポレーション株式会社
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関西パビリオンの点群データの閲覧
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