生態学の視点から産業の持続的な発展を目指すスタートアップ企業と、卓越した表現力でモノ・コト・ヒトを視覚化するビジュアル制作スタジオ。お互いがそれぞれの強みを活かし、補い合うカタチで生み出したコンテンツが、「共創」が生み出す豊かな未来を発信します。
「共創」によって足りないピースを補完し合う関係に
生物多様性とは、地球上に存在するすべての生物の多様性と、それらによる生態系の複雑なつながりのこと。私たちの暮らしは、地球が長い年月をかけて育んできた生物多様性の上に成り立っている一方、人間の活動によって生物多様性が失われ、野生生物の生息地などの豊かな自然環境の消失・劣化が大きな課題となっています。
今回お話を伺ったのは、京都大学発のスタートアップ企業、サンリット・シードリングス株式会社代表の石川奏太さんと、大阪・東京でビジュアル制作スタジオを展開する株式会社スタジオテック代表の佐野展久さん、ディレクターの大田圭治さん。大阪・関西万博で公開されるコンテンツでは、サンリット・シードリングスも深く関わる、岡山県西粟倉村の「百年の森林構想」の取り組みを、スタジオテックがアートなビジュアルを駆使した微生物の視点などによって表現しています。


まずはサンリット・シードリングスさんの事業について教えてください。
石川さん京都大学では、研究成果の社会実装を目指していくつかのスタートアップ企業が立ち上がっていますが、当社は現・生命科学研究科教授の東樹宏和が2020年に創業。生態系やそこに息づく生物の機能を分析し、活用するサービスを提供しています。生物多様性が持続可能な食糧供給や地球環境の安定化に重要な役割を担っていることが明らかになっている今、人間社会の発展と健全な生物多様性・生態系の共存を目指すのが大きなテーマです。微生物を使った土壌改良など、特に農業や林業において当社のノウハウを提供しているほか、近年はさまざまな分野から依頼を受け、都市部を含めた土地や生態系の調査・報告、価値を高めるための提言なども行っています。


スタジオテックさんの事業はどのようなものでしょうか?
佐野さん当社は1987年の設立以来、写真撮影・画像加工・CG制作の3つの技術を軸に、企画・キャスティング・撮影などをトータルでプランニング。主にインテリア分野でのビジュアル制作を手がけていますが、大阪・東京のレンタルスタジオではドラマ撮影やさまざまなPV制作もサポートしています。
それぞれが異なる業界で活躍しているわけですが、今回の「共創」はどういった経緯で生まれたのでしょうか?
佐野さん私たちのメインバンク(池田泉州銀行)が大阪・関西万博のヘルスケアパビリオンでの出展企業を募集していて、声をかけてもらったことが参加のきっかけです。私たちのようなビジュアル制作会社のブース出展はこれまであまりなかったですし、純粋に大阪・関西万博への出展と聞いて、面白そうだなと。私はプロデューサーとして、大田は作品のメインディレクターとして参加しました。
大田さん公募で提案したのは、アゲハチョウになって大阪城公園を飛び回るというもの。アゲハチョウは紫外線が見えるため、人間の目とはまったく違う風景を見ています。そこから、アゲハチョウの世界観をVR技術によって表現することで、生物多様性を知るきっかけを作りたいと考えました。無事審査に通りましたが、生物多様性はクリエイティブ業界の私たちには専門外。専門家による監修が必要だと考えていましたが、偶然、出展企業が集まる会合で隣の席にいらっしゃったのが、その専門家の石川さんでした。
石川さんこれは本当に縁ですよね(笑)。私たちも生物多様性をわかりやすく紹介するコンテンツでの出展を目指していましたが、研究者の集まりですから、どうしても内容が学術的になってしまうことに頭を悩ませていました。そんな時、視覚化のプロフェショナルが隣にいらっしゃった。それで「一緒にやりましょう!」という話になりました。
佐野さんお互いがお互いを補完するカタチですよね。まさに「共創」の関係が私たちと石川さんで生まれました。


微生物など4つの視点で、森林の村が目指す豊かな未来を表現
今回制作したコンテンツは「微生物になって50年後の未来へ」。岡山県西粟倉村を舞台としたものですが、どういったものでしょうか。
石川さん西粟倉村は面積の90%が森林で、戦後、子・孫の世代のための植林を行ってきました。その一方、近年は次の世代のための森林はどうあるべきかを考え、豊かな森林づくりと、その木材などで暮らしを営む人々との持続的な共存に向けての「百年の森林構想」に取り組んでいます。その成果によって、西粟倉村はローカルベンチャーの聖地として知られ、林業の担い手や家具の製作を手がける職人も多く集まっています。私たちサンリット・シードリングスは、この西粟倉村の森林の生物多様性を調査・分析し、森林にどのような価値があり、今後はどのように森林の価値を最大化するのか、アドバイスやノウハウを提供しています。「百年の森林構想」のこれからの50年のビジュアル化をテーマに、村の人々が森林を育てていく様を、森林の生態系の基盤である微生物たちの視点になって追っていきます。
佐野さん私たちは生物多様性や生態系などに関する石川さんからのレクチャーを受けることから始まり、西粟倉村には何度も訪れ、取材や撮影を行いました。そこで気づいたのは、森林とともに生きる村の方々のポジティブな想い。微生物の働きは森林と人の共存と地続きであり、豊かな生態系が人の豊かな未来につながることを表現したいと考えました。
大田さん映像がブースのメインとなりますが、生態系で重要な役割を担う微生物の視点、森林が豊かになる様を紹介する科学の視点、林業や村人の想いといった人の視点、森林全体を俯瞰する鳥の視点の4つをシームレスに見せています。微生物の働きなんて私たちは見ることができませんし、そもそも微生物には視覚がありません。そんな“見えないもの”をどう表現するかが私たちの腕の見せどころ。アート的な手法で微生物の視点をわかりやすく、感覚に訴えるように紹介することで、来場者のイメージを刺激し、微生物や西粟倉村の未来に思いを馳せ、世界の認識を豊かになるようなコンテンツを目指しました。

普段の暮らしのなかで微生物の働きを意識することはなかなかありませんが、2社の「共創」によって、新しい気づきが得られるコンテンツになりそうです。
石川さんまさにそうですね。微生物は田畑をはじめ、都市のなかでも重要な役割を果たしていて、森林も当然、豊かな土壌を生み出す微生物の働きが欠かせません。人間の体でたとえれば、微生物は腸内細菌のようなもの。時には健康食品などによって病気のリスクを抑えてくれる腸内細菌の働きを活性化することがあると思いますが、森林の微生物も人の手によってその働きを活性化させること、つまり適切な土壌づくりや森林の管理(=林業)が大切です。今回のコンテンツを通して、林業とは何か、また生態系や生物多様性の未来のためにどんなアクションができるのかを考えるきっかけになればと考えています。

サイエンス×アートの「共創」で新しい潮流を生み出す
今回のコンテンツは2社による「共創」であり、また、西粟倉村との「共創」でもあると思います。
佐野さん私たちにとっても従来のクライアントワークとは異なる、“見えないもの”を視覚化する新しいチャレンジになりました。これが会場でどんな風に受け止められるのか、またどんな評価になるのか、とても楽しみにしています。
大田さん西粟倉村では私たち自身も生物多様性や林業の本質、人々の想いなど、たくさんの気づきがありました。映像はそんな私たちの驚きと発見が込められたものに仕上がっています。まさに「共創」の化学反応がカタチになったのではないでしょうか。今回の展示はサイエンス×アートをテーマとしており、私たちはアートの部分を担当しました。生物多様性を理解するためには、人間以外の視点をいかに持つかという想像力が欠かせないことがわかりましたし、アートには“見えないものを見せる力がある”こともあらためて感じました。今回のコンテンツは来場者一人ひとりにとって小さな体験かもしれませんが、それが積み重なって、潮流を生み出すようなマクロスケールにまで広がって欲しいですね。
石川さんスタジオテックさんの尽力もあって、生態系や生物多様性といった私たちの事業のキーワードがわかりやすく視覚化されました。国内外からたくさんの来場者が訪れる大阪・関西万博ですから、「豊かな生態系ってなんだろう?」「未来のために何ができるんだろう?」と考えるきっかけにきっとなるはずです。また、地球環境問題はあまりスケールの大きな話を最初からしてしまうと、自分事として捉えることができません。でも、今回のコンテンツでは人の暮らしや想いにふれていて、身近な問題に捉えやすくなっていることも大きなポイントです。それはスタジオテックさんとの「共創」の賜物。今後も一緒に「共創」を続けたいと考えています。
サンリット・シードリンクス株式会社
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西粟倉村「百年の森林構想」
西粟倉村「百年の森林構想」