誰もが宇宙で活躍できる未来が、もうすぐやってくる

「わくわくは、宙(そら)にある」を掲げ、ICTをはじめとした最新の技術で宇宙と私たちをつなぐ、さまざまな事業を展開しているのが株式会社amulapo(アミュラポ)です。ロケットや月面探査車などの開発にたずさわるエンジニアであり、同社代表取締役CEOでもある田中克明さんに、お話しをお伺いしました。

田中克明さん

私たち一般人からすると、宇宙と聞いても、毎日の暮らしとかけ離れた遠い存在に思いがちです。

田中さん確かに今はそうかもしれません。でも、カーナビやスマホでのマップ機能といった毎日何気なく使うサービスも、GPS衛星の位置情報機能を活用したもの。宇宙産業の一つなんです。宇宙産業は2030年までには150兆円以上の規模に達する予測があるなど、世界でも成長市場として注目を集めています。今後は衛星データの活用のみならず、物資の輸送、資源開発、宇宙旅行など、人が宇宙に進出し、その活動を支えるさまざまなビジネスが生まれるはずです。宇宙への意識も大きく変わるでしょうね。

スペースX社を筆頭に、近年は民間企業による宇宙産業への参入が盛んです。

田中さん国を挙げて、選ばれた人材だけが宇宙に関わることができるといったこれまでの考え方から、今はもっとオープンに、あらゆる企業や人が参入し、宇宙開発を加速させる考え方にシフトしています。日本も国が支援して、宇宙スタートアップ企業の参入を活性化させていますよね。

そのような中、amulapoはどのような事業を行っているのでしょうか?

田中さん私たちは誰もが宇宙で活躍できるような未来を目指しています。そのためには、最先端の宇宙研究や科学技術の成果を発信し、誰もが活用できるよう社会実装する必要があります。当社の事業の一つが、xRやロボット、AIなどのICT技術を駆使して、専門性の高い学術的な発信ではなく、誰にでもわかりやすく宇宙や科学技術の最先端を伝えるコンテンツを作ること。ARやVRを利用した「バーチャル宇宙飛行士選抜試験」「月面仮想宇宙飛行士訓練」「月面極地探査実験A」といった体験コンテンツをツールに、子どもから大人まで、宇宙時代に向けた人材育成に取り組んでいます。このほか、宇宙に関連する技術支援や仕組みづくりを行うほか、ユニークなものでは長野県にある「宇宙ホテル~Space Hotel the amulapo~」の運営、月と宇宙をテーマにしたグッズのオンラインショップなども手がけています。

そんな田中さんが宇宙に関わるきっかけは何だったのでしょうか?

田中さん私は大学院でロボット工学を専攻していましたが、当時の研究室では複雑な機能を備えたヒューマノイドの開発が盛んでした。でも、実際にそのロボットを使うとなると、専門性が高く、ちょっとした不具合で動かないことも…。私のロボット観は逆で、シンプルな機能を持つロボットを組み合わせてシステムで課題を解決する、もっと実用的で誰もが使えるロボットを開発したいと考えていました。そんな時、宇宙ベンチャー企業ispace代表者の講演を聞く機会があり、宇宙開発で求められるロボット観が、私のロボット観と同じだったんです。それが私の中でロボットと宇宙が結びついたきっかけです。

その後、amulapoを立ち上げた理由は?

田中さん大学院修了後、エンジニアとしてispaceで月面探査車などの研究・開発に取り組んでいましたが、それだけでは宇宙開発は加速しないと感じました。一部の専門家ではなく、誰もが宇宙産業に参入するためには、最先端の成果を発信し、社会実装して、投資を増やし、さらに成果を発展させる、そんなサイクルを回す必要があると考えたのです。それを行うのがamulapoです。日本は高い技術力を持っていますが、それらを発信したり、社会に実装することはあまり得意ではありません。私をはじめとした現役のエンジニアや研究者であるamulapoのメンバーが、宇宙や科学技術の最先端をたくさんの人に向けて発信することで、ゆくゆくは日本に宇宙時代の競争力が育まれれば…という想いで事業を立ち上げました。

amulapoが手掛けるさまざまなxRコンテンツはエンタメ性も高いですよね。

田中さんゲームは自然とルールを覚えて、クリアを目指しますよね。私たちのコンテンツも同じで、最新の宇宙や科学技術を学びながらクリアを目指すもの。何かを暗記したりするような受験勉強のスタイルでは好奇心は育まれません。特に子ども向けコンテンツは、楽しみながら学ぶエンタメ性を重視しています。コンテンツを通して宇宙に興味を持ってもらって、将来、宇宙に関わる分野で働くことが自然と選択肢の一つになっていく社会になって欲しいと思っています。

月面との類似性に着目した「鳥取砂丘月面化プロジェクト」が進行中

そんなamulapoは鳥取県とのつながりが深いですよね。鳥取砂丘を舞台とした宇宙飛行士体験コンテンツには、多くの人が参加していると聞きました。

田中さん月面探査車の走行試験などで鳥取砂丘と縁があったこともありますが、それとは別に、県内の高等学校の教員の方から、一緒に何かしませんかという話があったんですね。それで鳥取に出かけたのですが、すごくもてなしてもらって、何らかの形で恩を返したいと思ったのです。それでピンと来たのが、鳥取砂丘を月面に見立ててアクティビティを生み出すことでした。実際、科学的には異なりますが、一面砂の世界が広がる鳥取砂丘は勾配もあり、月面とよく似ているんです。特に夜の鳥取砂丘は非日常感があって、晴れた日は星空も本当にきれいですよ。

鳥取県は「星取県」としても知られています。

田中さん県内のどこからでも星空が美しく見えるということで、鳥取県は「星取県」としてブランディングしていました。それもあって、県に鳥取砂丘で宇宙に関する産業創出をしてみませんかと提案。キックオフのシンポジウムも開催しました。その後、VRによる体験コンテンツを提供する一方、「星取県」としての具体的な取り組みや産業創出の仕組みづくりにも、深く関わるようになったのです。現在は県と一緒になって、「鳥取砂丘月面化プロジェクト」を進めています。

2023年7月には鳥取県が鳥取砂丘月面実証フィールド「ルナテラス」を整備しました。ここにも田中さんは関わっているんですよね?

田中さんそうですね。以前から自動車メーカーやタイヤメーカーが月面探査ローバーの開発を進めている中、いずれ屋外で実証実験ができる場所は必要になるだろうと考えていました。鳥取砂丘ならできると旗振り役を買って出た結果、ルナテラスの整備をサポートできました。国内には実験施設としてJAXA相模原キャンパス宇宙探査実験棟がありますが、屋外の実験施設としては日本初なんですよ。

ルナテラスとはどういったものなのでしょうか?

田中さん場所は鳥取砂丘でも国立公園外にある、鳥取大学乾燥地研究センターの敷地内です。面積は約0.5haで、いろんな実験ができるように、自動車メーカーやタイヤメーカーの意向も汲み取って、平面ゾーン、斜面ゾーン、自由設計ゾーンの3つで構成されています。県の担当者とは「1年で2件くらい実験が行われたらいいね」なんて話していたんですが、オープンから1年経たないうちに10件以上。月面探査車以外にも、宇宙に関わる国内外の企業・研究機関による実証実験が行われています。

ルナテラスで実験した月面探査車が、将来、月で走行することもあるわけですね。

田中さんもちろん、あるでしょうね。月面と鳥取砂丘の類似性や違いをデジタル技術によって把握することで、ルナテラスで月面環境を想定した実証が可能になります。現在はその類似性や違いの調査・研究も進んでいます。また、このような屋外実験施設は世界的にも数が少ないんです。将来は「アジアで宇宙に関する実験するならルナテラス」と言われるような、国際的な宇宙開発にも貢献できる存在になればと考えています。

多様な人材が宇宙に飛び出せる社会の仕組みづくりに貢献したい

エンジニアとして、またamulapo代表として活躍する田中さんですが、そのモチベーションはどこから?

田中さんispaceでは2040年には、月には人が1000人居住し、1万人が地球と月を往来し、月に経済圏が確立している未来を予測し、そのための技術開発に取り組んでいました。2050年はどうでしょうか。さらに月にはたくさんの人が居住・往来し、火星にも人が進出して開発が進むでしょう。これまで人類は地上での水平移動と開拓の歴史を歩んできましたが、ついに地球の重力を離れようとしています。このタイミングに私たちが生きていることは奇跡ですよね。「なぜ宇宙の仕事をしているの?」とよく聞かれますが、それは人類の歴史における大きな一歩を踏み出せる可能性があるから。きっとこれからの世の中は、もっとたくさんの人が宇宙に関わる仕事に就くはずです。私たちの予測を超えるスピードで宇宙開発が進んでもおかしくありません。

そのために体験コンテンツなどによる人材育成に力を入れているわけですね。

田中さん 日本は宇宙開発において、最先端を走るアメリカからは全体的に遅れているといわれています。それを取り戻すためには、やはり人を育成すること。特に若い人の参入を加速させたいですね。2025年には鳥取県が主催でルナテラスで学生によるローバー大会を開催する予定なんです。そんな若者参入のきっかけとなるような機会を、各自治体の方とも連携しながらたくさん生み出して、宇宙開発サイクルの流れを創り出したいですね。

amulapoはどのようなビジョンを描いているのでしょうか?

田中さん私たちのスタートは、大学院時代、VRによる「火星における人類100万人の暮らし」をデザインするアイデアコンテストで優勝したこともきっかけの一つです。ですので、火星で100万人が暮らせるまで、いろんな分野を横断しながらチャレンジし続けたいですね。宇宙産業はブルーオーシャンで、大きな可能性を秘めています。たとえば、法律。私も少し関わったことがありますが、実は宇宙空間における法整備はまだまだこれからなんです。そういった意味では、いわゆる理系の人材だけでなく、文系の人材も活躍できますよね。多様な人材が宇宙に飛び出せる社会の仕組みづくりに貢献したいと考えています。

今回の万博も宇宙産業が加速する一つのきっかけになるかもしれませんね。

田中さんアポロ計画で人が月に立ったのは1969年で、前回の大阪万博は1970年。そして、現在はアルテミス計画が進む中、2025年に大阪・関西万博が開催されます。何か縁があるのかもしれませんね(笑)。アポロ計画ではたくさんの人がテレビで月面着陸の瞬間を見守ったといいます。アルテミス計画と大阪・関西万博も、宇宙へのムーブメントを生み出す、大きなきっかけになることを期待しています。

株式会社amulapo
株式会社amulapo webサイトへ

ピックアップ記事